湯けむりと歴史情緒あふれる城崎温泉 ― しののめ荘で味わう特別な時間

到着の瞬間が旅の始まり
JR山陰本線「城崎温泉駅」に降り立つと、どこか時間の流れが変わったように感じられます。荷物を預けて、浴衣に着替え、下駄を鳴らしながら石畳を歩くその一歩一歩が“温泉旅”の幕開け。
湯けむりが夜の町をやわらかく包み込み、しののめ荘がその中心で、静けさと温もりをそっと紡いでいます。
しののめ荘 ——“間(ま)”を感じる宿
しののめ荘は、和の趣を軸にしながら、過度に装飾されない調和の中で「間(ま)」を感じさせる宿。
客室は和室が中心に設えられ、冷暖房・冷蔵庫・セーフティボックス・ウォシュレット付きトイレなど快適性も確保。庭を一望できる廊下のガラス床や、女性には柄浴衣貸出サービスなど、細部に旅を豊かにする工夫があります。
癒やしを誘う水景と木の温もりが、この宿を特別な時間へと誘導してくれます。

湯けむりの町を歩く:外湯体験
城崎温泉の七つの外湯は、どれも徒歩圏内に点在しており、宿から浴衣と下駄で出かけられるのが魅力。
例えば 御所の湯は、露天風呂から庭園の緑や滝、そしてその奥に望む借景の山々の景色が人気です。特に、城崎温泉の外湯の中では唯一、全面が露天風呂になっている庭園風呂です。
地蔵湯は、玄武洞を模したレトロな建物と広々とした浴槽が特徴の、地元住民にも親しまれる銭湯のような外湯です。鴻の湯は、城崎温泉最古の湯として知られる閑静な環境にあり、四季折々の風情が楽しめる開放的な庭園露天風呂が魅力です。
湯上がりには川沿いの柳並木を散策し、灯りの影が水面を揺らす夕刻の町に身を委ねる。静けさと温もりが出会う瞬間です。

歴史と情緒を宿す町角
城崎温泉は温泉地であると同時に、文豪ゆかりの文学の町でもあります。23を超える文学碑が町内に点在し、ゆっくりと散策すれば、湯だけではない深みを感じることができます。外湯巡りの合間に、文芸館や小さなギャラリーを訪ねてみると、温泉旅特有の“湯けむり越しの文化”に出会えます。情緒とは、ただ古いということではなく、その町の「今と昔が交差する時間」を感じることにあります。
食と湯、そして味わいの時間
宿での夕食は、旅のクライマックス。特に但馬エリアの名物、 但馬牛や松葉ガニは、地元の誇りそのもの。赤身の旨味と脂のキレが見事に調和する但馬牛、冬の海で育まれた松葉ガニの脚肉、かに味噌の濃厚さ——。
さらに地元農家直送の野菜や、但馬で栽培されたお米が、皿と皿の間に軽やかな調べを加えてくれます。温泉で身体がほぐれた後、ゆったりと膳を囲む時間は、旅の醍醐味のひとつです。

夜の散策:灯りと影の交差点
浴衣に身を包み、街灯が灯る川辺を歩く。石畳に下駄の音が軽く跳ね、橋のたもとでは湯気が立ち上る。町の明かりは強すぎず、暗すぎず、散策に最もふさわしい“薄明”。携帯を一旦仕舞って、ただ歩く。
静かな会話が生まれ、目線と目線が交わる。宿に戻ったとき、湯冷めする気配はない。湯・町・宿がひとつの物語を紡いでいるかのようです。

朝の湯浴み:一日の始まりをゆるやかに
翌朝は早起きして外湯へ。開店直後の静かな浴室で、湯面がまだ波立たないうちに浸かる至福。川沿いのカフェでコーヒーを一杯。宿に戻ったら畳に手を置き、一礼。「また帰ってきたい」という旅人のささやかな約束を胸に、チェックアウトの支度を始めます。
季節という演出台
城崎温泉は四季の演出が見事です。
・春:桜が町を薄紅に染め、川面に舞う花びらと湯気の共演。
・夏:浴衣と夜風、ライトアップされた橋と浴場。
・秋:紅葉が燃えるように山肌を染め、露天風呂からの眺めが格別。
・冬:雪景色の石畳、湯けむり、静けさの中で温泉に浸かる贅沢。
季節によって町の顔が変わり、同じ道を歩いても違った旅になる。旅の余白がそこにあります。

おわりに:旅の余韻を宿場所
しののめ荘で過ごす時間は、豪華な体験ではなく“整える体験”。浴衣に着替え、湯に浸かり、町を歩く。宿を出発点に、町・湯・食・文化をつなぐ旅が叶います。チェックアウトの瞬間は終わりではなく、次の季節への予感。帰りの列車でカレンダーを開き、次に歩きたい季節の城崎を思い描いてください。水面に映る行灯の灯りが、きっとまたあなたを迎えてくれるでしょう。